歯列矯正は長い期間をかけて行うので、途中で転勤や留学・進学、結婚などで引っ越しが発生するケースもあります。そんな時どうすればよいのでしょうか。
このコラムでは、歯列矯正の途中で引っ越すことになった時のリスクや、チェックしておきたいポイントをまとめています。
歯列矯正を始めたいけれど、引っ越しを控えている・転勤の可能性があって躊躇されている方も、どんなことに気をつけたらよいのかわかります。
歯列矯正の途中で引っ越しが決まったらどうする?
虫歯などの治療と違い、歯列矯正の治療期間は1~3年程かかることが一般的。ですので、治療途中で引っ越しとなった場合、単純に転居してから歯科医院を探せばよいというわけにはいきません。
まずは歯列矯正中に引っ越しが決まった場合の選択肢を確認しましょう。
①そのまま通い続ける
歯列矯正は治療開始前に、最終ゴールまでの治療計画を作成し、それに沿って治療が行われます。なので、1つの歯科医院で治療が完結するのがベストではあります。
また、通院も1~2ヶ月に一度くらいがほとんどですので、もし転居先から通院が可能であれば、そのまま通い続けるのが良いでしょう。
特に難症例の場合は、転院せずに通い続けたほうが良い場合もあります。通院頻度を少なくするなど、担当医と相談して通い続けられるようにすることもあります。
ただし、装置が壊れたなど応急処置が必要な場合、急な来院が必要になることも念頭においておきましょう。
②一時中断する
もし転居期間が短期間なのであれば、一時的に中断するという選択もあります。
その場合は、装置を完全に外すのか、外さないのか、後戻り防止の装置(リテーナー)をつけておくのかなど、担当医と相談して方針を決めていきます。
そして、また歯科医院に通えるようになったら、続きから治療を再開します。
この場合も、装置が壊れたりするリスクがあることを念頭に置かなければなりません。壊れた装置をそのままにしておくと、後戻りしてしまい、治療を再開する時にまた治療計画の立て直しが必要になることもあります。つまり治療期間や費用が余分にかかる可能性があるということです。
③転院する
引っ越しされる方は転院を考える方が多いと思います。転院については、以下の4点についてこれから1つ1つ解説していきます。
- リスク
- 治療費
- 転院の流れ
- 転院先選び
歯列矯正中の引っ越しによるリスク
転院先を探さなければならない
歯列矯正中の転院先は、引っ越した後で近くの歯科医院に行けばよい、というわけにはいきません。
なぜなら、歯列矯正の治療方法は様々あり、必ずしも引っ越し先の歯科医院でこれまでと同じ治療が受けられるとは限らないからです。
通っている歯科医院で転院先を紹介してもらえることもありますが、そうでない場合、自分で転院先を探さなければなりません。
同じ方法・方針で治療できないことがある
これまでと同じ矯正方法・装置で治療してくれる医院が、引っ越し先から通える範囲に見つからない場合もありえます。
やむを得ない場合、治療方法を変えて1からやり直さなければならない可能性も、把握しておきましょう。
費用が余計にかかることがある
転院すると、改めて検査・診断を行って治療方針をたてることが多くなります。医院によって料金体系も異なるため、当初の予定よりも費用がかかる可能性が高いです。
もし治療方法を変えるとなれば、装置の付け替えなどで追加費用がかかる場合もあります。
費用についての詳しい内容は、「転院したら治療費はどうなる?」の項目をご覧ください。
治療期間が長引く
転院先がすぐに見つからなかったり、治療計画の立て直しや装置の取り外し、追加の検査などが必要になると、その間は治療が進みません。結果として当初の予定よりも治療期間が長くなる可能性があります。担当医の方針によっても、治療期間が変わります。
また、転院により装置を外したり、期間が開いてしまうと「後戻り」を起こす可能性があります。その場合、戻ったところからやり直しとなるため、その分の追加の期間・費用がかかることもあります。
医院に慣れるまで不安
人との信頼関係を築くのには時間がかかるもの。新しい病院の先生やスタッフがどんな人で、希望通りの治療をしてもらえるのかなど、慣れるまでは心配な気持ちになることもあるでしょう。
転院したら治療費はどうなる?
通っている医院での治療費
多くの場合、治療費の支払いは治療が済んでいるところまでで、治療していない分は返金してもらえます。※すでに作られた装置やマウスピースの分は返金に対応してもらえない場合もあります。
返金については、治療前に交わした同意書・契約書に則って行われますので、確認してみましょう。
ローンを組んでいる場合は、ローン会社に問い合わせ、手続きを行う必要があります。
また、日本臨床矯正歯科医会では以下のように返金額の目安を示しています。(すでに全額入金となっている患者に対しての返金する割合の目安)
治療のステップ | 返金額判断の目安 |
---|---|
前歯の整列 | 60~70%程度 |
犬歯の移動 | 40~60%程度 |
前歯の空隙閉鎖 | 30~40%程度 |
仕上げ | 20~30%程度 |
保定 | 0 ~ 5%程度 |
※大人の歯列においてマルチブラケット装置による治療の場合
参考:転居等で矯正歯科治療が継続できなくなった場合の治療費の清算について(日本臨床矯正歯科医会 )
なお、日本矯正歯科学会においても同様の返金目安が示されていますので参考にしてみてください。
参考:矯正歯科患者の転医に際しての矯正費用の返金に関する指針 (日本矯正歯科学会)
これらはあくまでも目安ですので、歯科医院ごとに具体的な対応は異なります。
転院先での治療費
転院先で支払う治療費は、通っていた歯科医院で返金された金額よりも高くなる可能性が高いです。
改めて検査・診断や治療計画を作成したり、医院ごとに料金体系が異なるためです。
矯正治療は自費診療であり、これまで通っていた医院と転院先の医院との間には、治療方針や費用の継続についての公的な基準はありません。新たな治療方針や費用は、症状や治療の状況に応じて転院先の医院で決められます。
また、装置をつけたまま転院しても、支払うのが調整費用だけとはなりません。なぜなら、矯正治療の治療費は、装置の値段だけではなく、歯科医師の知識や技術、経験に対しての金額だからです。
引っ越しによる転院のながれ
歯列矯正中に引っ越すことが決まったら、なるべく早く行動しましょう。やることは次の4つです。
①担当医に報告・相談する
引っ越しが決まったらまずやることは、すぐに担当医に報告することです。できれば次回の通院の時を待つよりも、分かった時点で話しておくのがベスト。担当医と相談して、このまま通い続けるのか、もしくは転院するのか、方針を決めます。
もし転院となった場合には、必要な資料を準備してもらわなければならないので、なるべく早く相談しましょう。
②転院先を決める
転院先は、担当医から紹介してもらえることもあります。具体的な歯科医院の紹介が難しい場合でも、どんな医院を選んだら良いか教えてもらえたり、候補の歯科医院をチェックしてもらえることが多いです。今後の矯正治療を決める大切なことですので、遠慮せずに担当医と相談して転院先を決めることがおすすめ。
③必要な資料を準備してもらう
転院先が決まったら、必要な書類や資料・診断書等を担当医に作成してもらいます。
④治療費を清算してもらう
基本的には治療していない分は返金してもらえるので、契約・支払い方法に応じて返金してもらいましょう。
この4つが引っ越し前にやっておくことです。引っ越しが終わった後は、転院先に③で用意してもらった資料を提出して、治療を再開していきます。
転院先選びのポイント
転院先は、今かかっている担当医から紹介してもらうのがおすすめ。引っ越し後も納得のいく治療を受けられるよう、ご自身で転院先を決める際に、気をつけたいポイントをご紹介します。
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これまでと同じ矯正方法・装置を取り扱っている
最近の矯正治療は、非常に多くの治療方法があり、歯科医院によって取り扱っているものが異なります。まずは、これまでと同じ矯正方法・装置や器具を使って治療をしてくれる医院かどうか、チェックしましょう。
なぜなら、今行っている矯正治療方法を取り扱っていない歯科医院へ転院してしまうと、治療方法や装置を変えなければならず、また1からやり直しとなるからです。矯正治療は一貫して同じ方法で行ったほうが、費用や期間など様々な面で負担が少ないです。
転院の体制が整っている
矯正歯科医院の中には、転院の受け入れを経験していたり、グループで転院のシステムを整えている医院もあります。そういった転院の体制が整っている歯科医院の方が、スムーズかつ安心して治療を再開できます。
転院を受け入れてくれるかどうか、転院時の流れや対応についても確認しておくようにしましょう。
保定期間中の引っ越しはどうする?
保定期間に自己判断でやめない
歯を動かして並べる治療が終了した直後は、まだ骨や周りの組織がしっかり固まっておらず、歯並びが元に戻ってしまいやすいです。それを元に戻らないように固定しておく期間を保定期間と言います。保定期間にはリテーナー(保定装置)という後戻りを防止する装置を着けておく必要があります。
治療が終わったからと言って、勝手にリテーナーや通院をやめてしまうと、キレイに並んだ歯並びは簡単に崩れてしまいます。つまり、これまでの治療が台無しになる恐れがあるのです。
保定期間でも転院先は決めておくのが吉
保定期間に入ってからの引っ越しでも、転院先はきちんと調べ、決めておくのがおすすめです。
後戻りはしていないかチェックしたり、リテーナーのメンテナンスなどのために通院が必要になるからです。
保定期間は少なくとも矯正治療期間+半年ほどが目安ですが、後戻りがしやすく固定が難しい方の場合は、一生涯リテーナーをつけるケースもあります。またリテーナーは、長く使用していればその間ずっと後戻りを防ぐことができます。
その期間には、リテーナーが壊れてしまったり、後戻りが起きてしまったりといったトラブルもあり得るでしょう。放っておけば、歯並びはあっという間に崩れてしまいます。そんな時、転院先が決まっていればすぐに対処することが可能です。
保定期間の転院先選びにおいても、気をつけるポイントは同じです。転院先でこれまでのリテーナーが使えない場合には、リテーナーの作り直しをする場合もありますのでご注意ください。
引っ越しが決まっているけど歯列矯正したい時
ここからは、引っ越しの可能性があって歯列矯正に踏み切れないとお悩みの方向けに、治療前に考えておきたいことをお伝えします。
転院を見越した医院選びをする
転院するかもしれないことを前提に、医院を選ぶのも一つの選択肢です。
例えば、グループ医院や提携医院がいくつもあるところであれば、転院時の負担が少なく済む場合もあります。医院によって対応も異なるので、事前にホームページ等で明記されているかチェックしたり、カウンセリングなどの際に必ず問い合わせておくようにしましょう。
また、日本臨床矯正歯科医会や日本矯正歯科学会に所属している医院であれば、転院における治療費の返金額について、学会で示されている基準に沿って決めている医院が多いです。その点も参考にしやすいでしょう。
通い続けられる医院を選ぶ
引っ越す可能性のある場所が分かっていて、なおかつ遠方でないのであれば、現住所からも引っ越し先からも通える地域で歯科医院を選ぶと、転院のリスクを下げられます。
引っ越し後から治療を始める
引っ越しの可能性が近い時期だったり、一定のスパンで転勤などが決まっている場合には、今すぐに治療を始めないほうが良い場合があります。
歯列矯正の治療期間は、1~3年程が多いですので、引っ越した直後からスタートすれば、治療期間内での転院が避けられるかもしれないからです。
通院頻度の少ない治療方法を選ぶ
通院の頻度が少なければ、万が一引っ越しをしても、同じ医院に通い続けられる可能性が高くなります。
医院の方針などにもよりますが、多くの場合、ワイヤー矯正よりもマウスピース矯正の方が通院頻度は少ない傾向があります。通院頻度を基準として矯正方法を選ぶのも1つの手です。
担当医に引っ越しの予定・可能性を伝える
引っ越しの予定や可能性があるならば、必ず担当医に伝えておきましょう。
予め把握してもらっていたほうが、治療や事務的な引き継ぎもスムーズに行えたり、転院先をしっかりと検討できます。
治療開始前であれば、現在の歯並びを確認した上で、開始時期や治療方法などのアドバイスを受けることができます。
海外への引っ越し・留学の場合
引っ越し先が海外の場合、日本に帰ってきてから治療を始めることをお勧めします。なぜなら、取り扱っている装置や骨格的な違いなど様々な問題が生じる可能性が高いからです。
やむを得ず途中で海外転居となった場合ですが、欧米や中国、韓国などの主要都市であれば、表側矯正においては転院先を紹介してもらいやすいです。しかし、裏側矯正など、治療方法によっては紹介できない場合もあります。
その場合、表側矯正に付け替えて転居したり、一時中断して帰国後再開する方法をとることが多いです。
海外転勤や、留学の希望がある場合にも、必ずあらかじめ担当医と相談しておくようにしましょう。
まとめ
歯列矯正は、できる限り1つの医院で治療を受けることがベスト。
転院を選択する場合には、次の点に注意しましょう。
- 医院によって矯正装置、治療方針や治療のゴール、料金体系などに違いがある
- 治療期間や費用が多くかかりやすい
- 途中で治療をやめてしまえば歯並びは元に戻ってしまう
また、現在引っ越しの予定があるなしに関わらず、転院となった場合の対応については予め確認しておくことをおすすめします。
引っ越しが分かった際には、少しでも早く担当医に相談しましょう。
歯列矯正はお金も時間もかかる治療です。台無しなんてことにならないように、担当医とよくコミュニケーションをとり、最良の方法を選んでいけるようにしたいですね。
※アットスマイル矯正では原則、提携クリニック間の転院に対応しておりません。引っ越しのご予定がある場合は、引っ越しが終わった後の来院をお勧めしています。
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